セクハラ問題で退任の「earth music & ecology」創業者の石川氏 新ブランド立上げでアパレル業界復帰

石川康晴
日刊ゲンダイDIGITALより転載

ストライプインターナショナル創業者である石川康晴元社長が、アパレル業界に復帰し、新たなD2Cブランドを立ち上げたことが大きな話題を集めています。
2020年のセクハラ報道により経営の第一線から退いて以来、約5年ぶりの表舞台への登場であり、その動向には業界関係者や消費者、さらには社会全体から注目が集まっています。

かつて「earth music & ecology」をはじめとする数々のブランドを成功させ、アパレル業界に新たな潮流を生み出した石川元社長が、再びどのような戦略で挑むのか、期待と警戒の入り混じった視線が注がれています。
今回の復帰は単なる新ブランド設立にとどまらず、企業ガバナンスや社会的責任の在り方をも問うものとなっており、業界に大きなインパクトを与える可能性があります。

ここでは、その背景や新会社「スタジオオンライン」が掲げる戦略、そして今後の市場展望までを丁寧に解説していきます。

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石川康晴元社長とセクハラ問題の経緯

earth music&ecology
マイナビニュースより転載

石川康晴元社長は1995年にストライプインターナショナル(旧クロスカンパニー)を設立し、「earth music & ecology」をはじめとする数々の人気ブランドを次々と生み出しました。
特に「earth music & ecology」はエコ意識とファッション性を兼ね備えたブランドとして若い女性を中心に爆発的な人気を博し、テレビCMや著名タレントを起用した広告展開によって一躍国民的ブランドへと成長しました。
また「Green Parks」「AMERICAN HOLIC」なども次々と市場に投入され、同社は国内外で急成長を遂げ、一時期は売上高1200億円を超える大企業へと拡大しました。

石川元社長は時代の空気を巧みに読み取り、トレンドを牽引する存在としてアパレル業界を代表する経営者と広く認知されていました。

しかしその華々しい実績の裏で、2020年には複数の女性社員へのセクハラ疑惑が報じられる事態となりました。
報道によれば、私的な食事への誘いから職場内での不適切な発言に至るまで、経営トップとしての立場を利用した行為が指摘され、社内では査問会が開かれるなど混乱が広がりました。
最終的に石川元社長は同年3月に社長を辞任し、その決断は世間に大きな衝撃を与えました。
この出来事は企業ガバナンスやコンプライアンスに対する社会的関心を一層高め、アパレル業界全体に大きな波紋を投げかけました。
辞任後も株主として会社に関与を続けましたが、公の場での活動は大きく制限され、かつての華やかな姿とは一転した状況に置かれることとなったのです。

新会社「スタジオオンライン」とD2C戦略

メロブティック2018
WWDより転載

石川元社長は2025年、新会社「スタジオオンライン」を設立し、自ら代表取締役会長CEOに就任しました。
同社は、

「2030年までに100ブランドを創出し、売上100億円を達成し、さらに地球に優しい100の活動を推進する」

という極めて野心的な目標を掲げています。
かつてのストライプ時代が大型ショッピングモールや駅前立地の店舗を主体に拡大路線を歩んでいたのに対し、新会社はD2C(Direct to Consumer)モデルを核に据え、消費者とダイレクトに結びつくことで迅速かつ柔軟なブランド運営を実現しようとしています。
そのビジネスモデルは、中間流通を省くことでコスト削減を図るだけでなく、消費者の声を商品開発に素早く反映させる仕組みを持ち、従来の大量生産型とは一線を画すものです。

第一弾ブランドとして発表された「メロブティック2018」は、Z世代を主要ターゲットに据え、オンライン販売を中心に展開されています。
単に若年層向けの価格帯やデザインを提供するだけでなく、インフルエンサーやSNSを駆使した双方向型のマーケティング手法を積極的に取り入れ、ユーザーが参加しやすいブランドコミュニティの形成を重視しています。
若い世代のライフスタイルに寄り添うデザインや手頃な価格設定はもちろん、環境配慮型素材やエシカル消費を意識したアイテムの開発も進められており、消費者の共感を呼ぶ仕掛けが随所に施されています。
さらに石川元社長はInstagramを通じて自らの言葉で新会社の構想や未来像を発信しており、トップ自らがブランドの顔としてビジョンを打ち出す姿勢は、従来以上に注目を集めています。

アパレル業界における復帰の意味

石川康晴
本人インスタグラムより転載

石川元社長の復帰は、アパレル業界において賛否両論を呼んでいます。
過去のセクハラ問題については、社内の査問や社外への説明の場で、法的な意味でのセクハラ行為に当たる点は否定しつつも、経営トップとして配慮を欠いた言動や「距離感の問題」があったことを認め、関係者に謝意とお詫びを示したと説明されています。
具体的には、私的な食事への誘いなど誤解を招きうるコミュニケーションがあった点を不適切であったと捉え、経営者としての自覚が足りなかったことを反省する旨を表明しました。
そのうえで、社内では厳重注意処分を受け、行動規範の明確化、相談窓口の機能強化、管理職向けの研修徹底などの再発防止策を公表したとされています。
他方で、第三者による詳細報告の全面公開や検証結果の開示が限定的であったことから、説明が十分でないとの見方も残り、評価は割れています。

こうした背景があるからこそ、石川元社長の経営手腕やブランド構築力を評価する声がある一方で、より高い説明責任を求める声も根強く、議論は続いています。
特に、消費者との直接的な関係性を重視するD2Cモデルは、コロナ禍以降の市場環境に適応した戦略として期待される一方で、トップ自らの倫理観と説明姿勢がブランド価値に直結する点が意識されています。

また、アパレル業界ではハラスメント防止やガバナンス強化が不可欠な課題となっており、石川元社長の動向は業界全体に対して象徴的な意味を持ちます。
再出発にあたり、石川元社長は職務上の線引きとコミュニケーションの在り方を見直し、同様の誤解や不信を生まない運用を徹底する姿勢を示しています。
今後は、外部有識者の活用や方針・実績の定期的な開示、被害申告時の独立した窓口設置といった、より客観性の高いガバナンスの仕組みをどこまで組み込めるかが焦点です。
透明性や倫理性をどこまで担保できるかは、新ブランドの信頼性だけでなく、D2Cモデルにおける長期的なファン形成やコミュニティ運営の成否にも直結するでしょう。

市場展望と今後の課題

石川康晴
FASHIONSNAPより転載

D2C市場は日本国内外で急速に拡大しており、ユニクロやZOZOといった既存の大手に加え、スタートアップ企業も次々に参入しています。
その競争環境の中で、石川元社長の「スタジオオンライン」が差別化を図るには、Z世代への訴求力を高めるだけでなく、他社にない独自の構想を打ち出すことが求められます。
具体的には、販売チャネルをECに限定せず、SNSを活用したライブ配信やインフルエンサーとの共同企画を重視し、ユーザー参加型のブランド体験を提供しようとしています。
従来の大量生産・大量販売モデルではなく、小ロットかつ短期間でのコレクション展開を繰り返し、消費者の声を即座に商品に反映させる仕組みを導入している点も大きな特徴です。
また、社会課題に即したブランド哲学を前面に掲げ、環境問題やジェンダー平等など若い世代が強く意識するテーマを積極的に商品コンセプトや広告戦略に取り込んでいます。

石川元社長自身が掲げる「地球に優しい100の活動」は、その象徴的な取り組みとして注目され、環境配慮型素材の導入やリサイクルを促す仕組み作り、地域社会との連携に至るまで、単なる企業スローガンにとどまらず、実効性と持続可能性を重視した構想へと進化させようとしています。

まとめ

石川康晴元社長のアパレル業界復帰は、単なる経営者の再登場にとどまらず、業界全体に対する問題提起を含んでいます。
D2Cモデルの採用やZ世代を意識したブランド展開は時代に即した挑戦であり、スピード感のある商品開発やコミュニティ形成によって従来の大量生産型アパレルとは異なる新しい市場価値を提示しています。
しかし同時に、過去のセクハラ問題をどのように克服し、透明性と倫理性をもって信頼を回復できるかが最大の課題であり続けています。

石川元社長自身が掲げる「地球に優しい100の活動」サステナブルな商品開発がどこまで実効性を持ち得るのか、そしてガバナンス改革や説明責任をどの程度果たしていけるのかは、彼の再出発を評価するうえで重要な指標となるでしょう。
復帰の成否はブランドの売上や市場シェアだけでなく、消費者や社会からの信頼回復の度合いに左右されます。
石川元社長の復帰が新たな成功を収め、アパレル業界の新たな道筋を示すのか、それとも社会的批判に再び直面し厳しい評価を受けるのか、今後の展開から目が離せません。

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