日銀利上げとFRB利下げ 円相場の今後の動きと行方を徹底解説

ドル円相場
読売新聞オンラインより転載

この年末の12月には、日米の金融政策における重要な会合が相次ぎます。
まず、12月9、10日にアメリカ連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれ、12月18、19日には日銀の金融政策決定会合が開催されます。

日銀の利上げとFRBの利下げという、これまでとは逆転した金融政策の組み合わせが現実味を帯びてきました。
足元のドル円相場は一時1ドル155円前後と依然として歴史的な円安水準にありますが、水面下では少しずつ潮目が変わりつつあります。
これから本格的に円高が進むのか、それとも海外要因や日本の財政不安をきっかけに、再び円安へと押し戻されてしまうのか。
為替の動きは、海外旅行の費用やネット通販のお買い物、外貨建て保険や投資信託の評価額、さらには将来の年金や賃金の行方にまで、じわじわと影響してきます。
2025年12月のFOMCや日銀の金融政策決定会合を前に、市場は「今後の方向性」を必死に探ろうとしており、ニュースを見るたびに不安になってしまう方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、日銀利上げとFRB利下げが同時進行する今の局面で、円相場がどのように動きやすいのかを、難しい専門用語はできるだけかみ砕きながら、将来の家計や資産づくりを考えるヒントとして、わかり易く整理してみたいと思います。

CONTENTS

日銀利上げとFRB利下げが同時進行する背景

日銀金融政策決定会合
日本経済新聞より転載

まずは、日本銀行がなぜ利上げへと舵を切ろうとしているのかを、少し丁寧に整理しておきたいと思います。
植田和男総裁は12月初旬の講演で、物価と賃金の動きを慎重に見極めながらも

「緩和度合いの適切な調整」

に踏み込む姿勢を示されました。
長く続いたマイナス金利と大規模緩和から、いよいよ「普通の金利水準」へと戻っていくプロセスを意識し始めた段階と言えます。
市場では12月18〜19日の会合で、政策金利を現在の0.5%から0.75%へ引き上げる観測が強まっており、その後も2026年にかけて段階的に1.0〜1.25%程度まで引き上げていくシナリオが意識されています。
「急ブレーキではなく、ゆっくりギアを入れ替える」というイメージに近いかもしれません。

背景には、春以降の賃上げの広がりと、サービス価格を中心とした粘り強いインフレがあります。
企業収益の改善を背景にベースアップが広がり、パートやアルバイトの時給もじわじわと上昇していることで、日銀が長年目標としてきた「物価2%と賃金の好循環」にようやく近づきつつあると判断されているのです。
高市早苗首相の政権も、成長と賃上げを重視しつつ、日銀の判断を尊重する姿勢を示されており、「金融は正常化へ、財政は景気を下支え」という大まかな役割分担が形になりつつあります。
超低金利に過度に依存するのではなく、賃金や生産性の底上げで経済を支える方向へ、日本全体が少しずつ舵を切り始めているように感じられます。

一方のアメリカでは、FRBがすでに利下げサイクルに入っています。
パウエル議長率いるFRBは、インフレ鎮静化と雇用の減速を背景に、2025年に入ってから0.25%ずつの利下げを重ね、12月10日のFOMCでも3会合連続の利下げが有力視されています。
市場では「景気を冷やし過ぎないように、慎重にブレーキを緩めていく」局面との受け止めが広がっており、政策金利は4%台前半から、将来的には3%台半ばまで下がっていくとの見方が有力です。
インフレ再燃を避けながらも、住宅や雇用、消費への過度な負担を軽くしようとする、非常に微妙なかじ取りが続いています。

つまり、これまで「日銀だけが超低金利、FRBは急ピッチで利上げ」という構図だったものが、今後は「日銀は少しずつ利上げ、FRBは少しずつ利下げ」という、まさに逆方向の動きへと変わろうとしているのです。
世界的な金融環境のなかで見ても、この日米の方向転換はとても大きな意味を持ちますし、そのはざまで動く円相場も、これまでとは違う表情を見せ始めていると言えるのではないでしょうか。

日米金利差縮小が円相場にもたらす変化

パウエル議長
日本経済新聞より転載

為替相場を動かす大きな要因のひとつが金利差です。
シンプルに言うと、

「金利の高い通貨を持っていた方がお得だよね」

という投資家の心理が、世界中のマネーを動かしているのです。
これまでドル円が一気に150〜160円近くまで円安が進んだ最大の理由は、まさにこの日米金利差の拡大でした。
日本の短期金利がゼロ近辺に貼り付く一方で、アメリカの政策金利は5%台まで引き上げられ、「金利の高いドルを持ちたい」という力が圧倒的に強かったためです。
その結果、円を売ってドルを買う動きが積み上がり、いわゆる「キャリートレード」と呼ばれる取引も活発化して、円安が自分の勢いで加速していくような局面が続いていました。

ところが今は、その状況が少しずつ変わりつつあります。
日銀が0.75%、さらには1.0%前後まで利上げし、FRBが3%台半ばまで利下げしていくと仮定すると、ピーク時には5%ポイント近くあった日米金利差が、将来的には2〜3%ポイント程度まで縮小していく可能性があります。
数字だけ見るとまだ差は残るのですが、「一方的にドルが有利」という構図から、「以前ほどの圧倒的な優位性はない」という段階へと移っていきます。
金利差が縮まるということは、ドルを持ち続ける魅力が少し薄れ、逆に長年売られ続けてきた円に目を向ける投資家が増えやすくなる、ということでもあります。

すでに市場では、その「これから縮まるであろう金利差」を先回りして織り込み始めています。
為替は、実際に金利が動いてから反応するというよりも、「この先こうなりそう」という期待や不安に敏感に反応します。
12月に入ってから、ドル円は一時157〜158円台から154円台半ばまで下落し、じわりと円高方向に振れています。
みずほリサーチ&テクノロジーズや野村證券など主要機関も、2025年末には140〜150円、2026年末には135〜140円方向へと、緩やかな円高シナリオを基本とする予想を公表されています。
これは、「今すぐ劇的な円高」というよりも、「時間をかけて超円安が修正されていく」というイメージに近いものです。

ただし、これはあくまで「方向感」としての円高であって、一直線に円高が進むイメージではありません。
アメリカの経済指標が強ければ一時的にドル買いが戻りますし、株式市場が大きく上昇する局面では、リスクを取りにいくお金が再びドルや新興国通貨に向かいやすくなります。
日本側でも政局不安や財政悪化懸念が意識されると、逆に円売りが加速することもあります。
その意味では、為替は上下に大きく振れながら、少しずつ超円安の修正が進んでいく、と捉えておくと気持ちが楽かもしれません。
「今日の1円、2円の動きに一喜一憂する」のではなく、「1〜2年という時間軸で見て、流れとして円高方向に戻っていくかどうか」を意識しておくと、為替ニュースとの付き合い方もだいぶ変わってくるのではないかなと感じています。

円高・円安それぞれのシナリオとリスク要因

円安・円高
インヴァスト証券より転載

では、ここから先のドル円相場はどのような道筋をたどる可能性があるのでしょうか。
ここでは少し時間軸を意識しながら、ざっくりと円高シナリオと円安シナリオに分けて考えてみたいと思います。
「どちらか一方だけが正解」というよりも、両方の可能性を頭の片隅に置いておくことで、急な為替変動にも気持ちの準備がしやすくなります。

まず円高シナリオでは、日銀が予定どおり利上げを重ね、FRBも景気減速を背景に利下げを続けることで、日米金利差が着実に縮小していきます。
そのうえで、日本の賃上げが続き、企業が人件費の増加を価格転嫁しつつも生産性の底上げに取り組み、個人消費も極端に落ち込まなければ、「日本経済がようやく脱デフレへ」という前向きな評価が海外投資家からも広がりやすくなります。
日本企業が海外に貯め込んだ利益を国内投資や配当、賃上げという形でゆっくり還元していく流れが強まれば、「日本株買いとセットの円買い」という動きも期待しやすくなります。
この場合、2025年末に140円台前半、2026年末には130円台後半〜130円台半ばといった水準も視野に入ってきますし、もう少し長いスパンでは120円台方向までの是正を指摘する声も出ています。

一方で、円安シナリオにも注意が必要です。例えばトランプ元大統領が再登場し、関税引き上げや大規模減税などインフレを再燃させる政策を打ち出した場合、アメリカの長期金利が再び高止まりし、ドルに資金が集まりやすくなってしまいます。
「インフレは嫌だけれど、金利が高いドル資産はやっぱり魅力的」という投資家心理が働くと、せっかく縮まりかけた日米金利差が再拡大し、円売り・ドル買いの流れがぶり返す可能性があります。
また、高市政権が大胆な積極財政を進めることで、日本の財政悪化懸念が意識され過ぎると、「日本国債の金利上昇」と「円安」が同時に進むような、やや厄介な展開も想定しておかなければなりません。
格付けの話題や国債増発に関するニュースが続くと、「日本売り」の思惑から円安方向に振れやすくなる場面も出てきそうです。

さらに重要なのが「実質金利差」です。
名目の政策金利だけではなく、インフレ率を差し引いた実質金利で見たときに、どちらの通貨が有利なのかが問われます。
例えば同じ1%の金利でも、インフレ率が0.5%の国と3%の国では、実質的な金利の魅力はまったく違ってきます。
仮に日本のインフレ率が再び上昇し、実質金利がマイナスに深く沈むようであれば、せっかく利上げをしても円の魅力は限定的になってしまいます。
逆に、賃上げと生産性向上を通じてインフレを落ち着かせつつ、実質金利を少しずつプラス方向に戻すことができれば、「安全資産としての円」に改めて光が当たる可能性もあります。

こうした要因が複雑に絡み合うため、専門家の間でもドル円の予想レンジは2026年にかけて130〜165円とかなり幅広くなっています。
強い円高派は

「金利差縮小と経常黒字を背景に130円台前半まで戻る」

と見ている一方で、強いドル派は

「政治リスクや財政不安が意識されれば160円方向への再円安も排除できない」

と考えています。
「円高方向に戻りやすいけれど、ショックがあれば一時的に円安160円方向もあり得る」といった、少しやきもきするような相場観が現実的なのかなと感じています。
その意味では、どちらか一方に賭けるのではなく、両方のシナリオを少しずつ織り込んだ備えをしておくことが、これからの数年を落ち着いて乗り切るうえで大切になってくるのだと思います。

今後の円高局面との付き合い方のまとめ

最後に、私たち個人がこの「日銀利上げ・FRB利下げ・円高方向」という大きな流れの中で、どのように向き合っていけば良いのかを、少し腰を落ち着けて整理しておきたいと思います。
ここまで見てきたように、構造的には日米金利差の縮小を通じて円高方向に戻りやすい環境が整いつつありますが、その道のりは決してまっすぐではなく、政治や景気のニュースひとつで上下に大きく揺れ動きます。
「円高になるか円安になるか」を言い当てるゲームのようにとらえてしまうと、どうしても不安や焦りが先に立ってしまいますので、発想を少し切り替えてみたいところです。

まず大事なのは、「完璧に先を当てようとしないこと」だと感じています。
為替はプロの投資家でも読み切れない世界ですので、「必ず円高になるから、今すぐ全力で外貨を売る」といった極端な行動は避けたいところです。
その代わりに、たとえば想定レンジを120〜150円程度と自分なりに決めておき、その中で分散してポジションを調整していくスタンスが現実的です。
「このあたりまで来たら少し外貨を減らそう」「この水準まで円高が進んだら、逆に外貨を増やそう」と、あらかじめざっくりとしたマイルールを決めておくことで、その場の感情に振り回されにくくなります。

具体的には、外貨建て資産を多くお持ちの方は、今の150円前後のゾーンでは一部を円に戻しておく、一方で将来120〜130円台に円高が進んだときには、旅行や留学、外貨建て投資を前向きに検討する、といった「段階的な行動プラン」を考えておくと、相場のブレに振り回されにくくなります。
たとえば、家族での海外旅行を検討されている場合は、「○円台になったら航空券やホテルを本格的に手配する」といった目安を決めておくだけでも、為替ニュースが少し楽しみな情報に変わっていきますし、外貨建て保険や投資信託を続けていらっしゃる方であれば、「円安が極端なときは新規購入を抑え、円高が進んだら少し積み増す」といった形で、無理のない範囲でメリハリをつけることもできます。

また、日銀会合やFOMC、米雇用統計の前後は為替が大きく動きやすいタイミングですので、その時期だけはポジションを少し減らしておく、あるいは新規の取引を控えるなど、メリハリをつけたリスク管理も意識したいところです。
短期の値動きを狙うのではなく、「イベントの前後は荒れやすいもの」と割り切って、あえて一歩下がって様子を見る姿勢も、長く付き合っていくうえではとても大切な選択肢だと思います。

これから数年かけて、超円安が少しずつ修正されていく可能性が高い一方で、政治や景気のニュースひとつで相場は大きく揺れます。
だからこそ、日銀の利上げやFRBの利下げの方向性という「大きな地図」を頭に入れつつ、目先の上下に一喜一憂し過ぎないことが大切です。
そして、「急な円高にも急な円安にも慌てないための準備」をしておくことが、私たちにとって一番の安心材料になるのだと思います。
為替相場はコントロールできませんが、自分のお金の置き方や行動のタイミングは、自分で選ぶことができます。
大きな流れを味方につけながら、自分や家族の将来のライフプランに合ったかたちで、ゆっくりと備えを進めていきたいですね。

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